駅に着いて長い階段を上っていくと、ちょうど目の前に白い杖を持った男の人がいました。そこは黄色い点字ブロックの分岐点で、どちらに向かえばいいのかわからないらしく何回も地面を突いて確かめています。
普段なら迷わず声を掛けるところですが、今日は遅れるわけにいかない大切な用事です。電車の本数が少ない昼間の時間帯なので、乗り遅れると約束の時刻に間に合わない可能性があります。僕の連れは気付かなかったらしく、どんどん切符売り場のほうに向かって行きます。
『このままでいいのか？ あの人困っているぞ。自分の用事の方がほんとに大事か？』
自問自答を繰り返しながらも、足は切符売り場に向かっていきます。
『すみません。きっと誰かが助けてくれます。もう少し待っててください。』
申し訳ない気持ちで歩いていくと、駅員らしい制服を着た人がすれ違って階段の方に向かっていきました。『良かった。これで大丈夫だ』と切符を買って振り返ると、なんとその人は階段を下りて行ってしまいました。
『もうだめだ。助けてあげなきゃ。』 連れに、先に行ってくださいと言おうとして、改札口の手前でもう一度振り返った時、いつのまにか現われた初老のおばさんが、杖の人と一緒に歩き出すのが見えました。
『ありがとう』心の底からそう思いました。
そして、すぐに助けてあげなかった自分がとても恥ずかしくもありました。
